VerraとGold Standardの土壌有機炭素推定モデルに関する新ガイドライン

2025年09月 Methodology Updates (1/2)

VerraとGold Standardの土壌有機炭素推定モデルに関する新ガイドライン

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、VerraおよびGold Standardが新たに発表した、土壌有機炭素(SOC: Soil Organic Carbon)を推定するモデルの利用に関するガイダンス文書を2つご紹介します。

土壌は、大気中の炭素を吸収・貯留する重要な役割を担っており、気候変動対策の鍵として注目されています。農業セクターにおいても、土壌有機炭素を増やす農法への転換を通じて、カーボンクレジットを創出するALM (Agricultural Land Management)プロジェクトが増えつつあります。

しかし、土壌の炭素量が実際にどれだけ増えたかを正確に知るためには、多くの地点で土壌サンプルを採取し分析する必要があり、そのコストの高さがプロジェクトを広域に展開する上での課題となっていました。そこで、こうした実測のコストを抑え、より効率的にプロジェクトを拡大していくための有望なアプローチとして期待されているのが、SOCを推定するモデリング技術の活用です。

先月から今月頭にかけて、VerraとGold StandardがそれぞれモデルベースでのSOCの推定に関するモジュールを新しく公開しました。

Verraが公開したのがVT0014 Estimating organic carbon stocks using digital soil mapping, v1.0です。これは主にリモートセンシングデータと機械学習モデルを用いてSOCを推定する際のガイダンスとなっています。こちらのドラフトは以前に弊社ニュースレターでも紹介しましたが、その後パブリックコメントを受けていくつかの修正が入りました。以下ではドラフトからの変更点に触れつつ、ガイダンスの概要を紹介します。また、ALM方法論で用いられる生物地球化学モデルのガイダンスとしてVMD0053を以前紹介しましたが、それとの違いについても振り返ります。

一方、Gold Standardは、新たにSoil Organic Carbon Model requirements and Guidelinesを発表しました。これまでGold StandardにはモデルベースでのSOC推定に関するガイダンスはなかったため、大きなアップデートと言えそうです。内容としてはVT0014に近いものの、VMD0053のスコープも一部含んでいる包括的なガイダンスです。更に、プロジェクトのデータへのアクセスや経済状況に応じて段階的に異なる定量化アプローチを取ることを想定している所が注目すべき点です。

これらの設計の違いは、プロジェクト開発者がどちらのスタンダードの下でプロジェクトを組成するかの意思決定に大きな影響を与えると考えられます。以下ではこれら2つのガイダンスについて、より詳しく内容をご紹介します。

(以下、表示されている画像はすべて紹介するドキュメントからの抜粋です)

VerraのDSMツールのVT0014の正式版の発表

以前のニュースレターで、Verraがパブリックコメントを募集していたデジタル土壌マッピング(DSM)に関する新しいツール「CN0137」のドラフトをご紹介しました。

2025年02月 Methodology Updates (2/2)
株式会社sustainacraftのニュースレターです。

この度、パブリックコメント期間を経て、内容が更新・明確化された正式版VT0014 Estimating organic carbon stocks using digital soil mapping, v1.0が2025年8月26日に公開されました。

本章ではこの新しいツールVT0014の概要を改めて解説するとともに、ドラフト版からどのような点が変更されたのか、その背景にある考え方と合わせてご紹介します。

VT0014の概要

VT0014は、デジタル土壌マッピング(DSM: Digital Soil Mapping)モデルという技術を用いて、農地における土壌有機炭素(SOC)の蓄積量を推定するための包括的なガイダンスを提供するツールです。

DSMとは、様々な空間データと機械学習モデルを組み合わせて、土壌の状態を地図のように可視化する技術です。具体的には、リモートセンシングデータ、地形データ、各種気候関連の変数など、空間的に明示的な変数をインプットとして利用します。これらのデータと、実際に採取した土壌サンプルの分析結果を機械学習モデルに学習させることで、広範囲のSOCストックを高解像度でマッピングすることを目的とします。

VT0014の大きな特徴は、用いるモデルやデータに対する自由度が非常に高い点です。しかしその一方で、モデルの信頼性を担保するため、最低でも5年に一度はプロジェクトサイトで新たに土壌サンプルを採取し、モデルの精度を再検証することが義務付けられています。

VMD0053(BGCモデル)との違い

Verraの方法論には、既にVMD0053と呼ばれる、生物地球化学(BGC: Bioeochemical)モデルを用いたGHG定量化のガイダンスが存在します。VMD0053は以下のニュースレターでご紹介しています。

VCSのALMプロジェクトにおけるBGCモデルの利用方法
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DSMとBGCはSOCストックを推定できる点で共通していますが、そのアプローチはいくつかの違いがあります。

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ウェビナー GX/ETSに向けた炭素クレジット 最新動向 解説セミナー COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向 参加登録する 概要 2025年11月にブラジルで開催されたCOP30も含め、パリ協定第6条(国際炭素市場メカニズム)やJCM(二国間クレジット制度)を取り巻く環境は大きく動いています。 また、日本国内でもGX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働に向けた制度設計が進んでおり、炭素クレジットの活用戦略は企業にとって重要な経営課題となっています。 本セミナーでは、環境省JCM推進室より髙橋室長補佐をお招きし、COP30の成果やパリ協定第6条関連の最新動向、JCMの進捗状況について解説いただきます。 また、サステナクラフトからは、JCMでのクレジット供給が期待されている中で、各国での6条関連の動きも踏まえた各国のJCMポテンシャルやボトルネックの分析についてお話しします。 加えて、SBTiの新たな企業ネットゼロ基準(Version 2)の2回目のパブコメの内容などもお伝えしたいと思います。

By sustainacraft