用語集

自然由来カーボンクレジットの基礎知識

カーボンスタンダード

ここではいくつか代表的な(自主的な)カーボンスタンダードを紹介します。現時点では、VCSが年間取引量ベースで最も多くのシェアを占めています。

  • VCS (Verified Carbon Standard): VCSは、世界で最も広く利用されている自主的なカーボンスタンダードで、Verraが管理しています。VCSプロジェクトは、Verified Carbon Units (VCUs)というカーボンクレジットを発行します。
  • Gold Standard: 環境保護や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与するプロジェクトに焦点を当てたカーボンスタンダードで、WWFなどの環境団体が設立しました。Gold Standardプロジェクトは、Gold Standard VERs(Voluntary Emission Reductions)というカーボンクレジットを発行します。
  • American Carbon Registry (ACR): ACRは、米国を中心に、Winrock Internationalが運営する温室効果ガス削減プロジェクトを評価・認証する自主的なカーボンスタンダードです。ACRプロジェクトは、Emission Reduction Tons (ERTs)というカーボンクレジットを発行します。
  • CAR (Climate Action Reserve): CARは、米国を中心に、Climate Action Reserveが運営する温室効果ガス削減プロジェクトを評価・認証する自主的なカーボンスタンダードです。CARプロジェクトは、Climate Reserve Tonnes (CRTs)というカーボンクレジットを発行します。

自然由来のカーボンプロジェクトの種類

自然由来のカーボンプロジェクトは、生態系の保全や修復を通じて地球温暖化ガスを削減・吸収し、気候変動緩和に貢献するプロジェクトです。当社のプラットフォームでは、AFOLU(農業、林業及びその他の土地利用) Activitiesなどと表現されています。

ここでは、VCSでの分類に基づき、REDD(AUD、APD)、ARR、IFM、WRCといった主要な自然由来のカーボンプロジェクトのタイプについて説明します。

  • REDD(Reduced Emissions from Deforestation and Forest Degradation): REDDは、森林伐採と森林劣化による排出削減を目指すプロジェクトです。REDDは、森林保護や持続可能な森林管理を通じて炭素吸収を促進し、炭素排出を減らすことを目的としています。REDDのプロジェクトはブラジルを中心とした南米に多くのプロジェクトがあります。

    • AUD(Avoided Unplanned Deforestation): AUDプロジェクトは、計画外の森林伐採を防ぐことにより、炭素排出を減らすことを目指します。森林伐採の規制や違法伐採の取り締まり、持続可能な森林管理の推進などを通じて、森林の破壊を抑制し、炭素排出の削減を実現します。

    • APD (Avoided Planned Deforestation): APDプロジェクトは、計画的な森林伐採を防ぐことにより、炭素排出を減らすことを目指します。計画的な森林伐採は、例えばアカシアやユーカリ、アブラヤシなどの商業植林のために行われます。APDプロジェクトでは、代替的な開発手法の提案や、持続可能な土地利用計画の策定を通じて、森林の破壊を最小限に抑え、炭素排出の削減を実現します。

  • ARR(Afforestation and Reforestation): ARRプロジェクトは、植林(Afforestation)と再植林(Reforestation)による炭素吸収の増加を目指します。これらのプロジェクトでは、新たに森林を創出することや、過去に伐採された土地に樹木を植えることで、炭素を吸収する樹木の量を増やし、気候変動に対処します。

  • IFM(Improved Forest Management): IFMプロジェクトは、森林管理の改善を通じて炭素吸収を増やし、炭素排出を減らすことを目指します。例えば、伐採の適切な計画や森林生態系の保全に焦点を当てることで、炭素貯蔵量を増加させます。IFMのプロジェクトは北米で多く見られます。

  • WRC(Wetland Restoration and Conservation): WRCプロジェクトは、湿地の修復(Restoration)と保護(Conservation)を通じて、炭素吸収を増やし、炭素排出を減らすことを目指します。湿地は、炭素貯蔵量が高く、気候変動緩和に重要な役割を果たします。WRCプロジェクトでは、湿地の健全な状態を維持・回復することで、炭素貯蔵量を増加させ、生物多様性を保護し、気候変動対策に貢献します。WRCのプロジェクトは特にインドネシアやコンゴ、ペルーで多く見られます。

具体的にどのように排出削減・吸収量を算出するのかは専門的な知識が求められます。REDDについては以下の記事をご参照ください。

REDDプロジェクトの考え方
自然由来カーボンクレジットの基礎知識 森林伐採が気候変動に与えるインパクト 森林はその成長の過程で大気から二酸化炭素を吸収し幹・根・葉の中に貯留します。このようにして大気から二酸化炭素を取り除き気候変動対策に貢献します。一方で、森林は伐採されると、燃料や木製品として利用され、最終的に二酸化炭素となり大気に放出されます。植林等の取り組みは大気から二酸化炭素を吸収する取り組みとなりますが、森林伐採の防止(REDD)も大気への二酸化炭素放出を防ぐ取り組みとなり、植林と同様に気候変動対策に貢献する取り組みとなります

また、以下の記事でREDDに関してより踏み込んだ分析も記載しています。

森林クレジットに関するGuardian記事について
株式会社sustainacraftの第10回Newsletterです。 Guardianが先日、Verraが発行する森林クレジットの90%以上は価値がないとする以下の記事を出し、業界では非常に大きな話題となっています(これに対してVerra自身も反論をしています)。 Revealed: more than 90% of rainforest carbon offsets by biggest provider are worthless, analysis shows Only a handful of Verra’s rainforest projects showed evidence of deforestation reductions, according to two studies, with further analysis indicating that 94% of the credits had no benefit to the climate.

方法論

それぞれのプロジェクト種類の中で、より細分化した形で方法論が規定されています。全てではないですが、以下VCSにおける代表的な方法論の例を挙げます。


カーボンスタンダードにおける標準文書

以下、VCSを例として、プロジェクトの登録、検証、発行の過程で必要となる文書をまとめます1

当社のプラットフォームでは、これらの情報をデジタルデータとして収集し、さらにリモートセンシングや因果推論といった技術を用いてこの内容を分析した結果をレポートとして提供しています。

  • PDD (Project Design Document)

    • カーボンプロジェクトの基本的な情報と詳細な計画をまとめた文書です

    • PDDには、プロジェクトの目的、範囲、温室効果ガス削減の方法、関連する法規制、ベースラインの設定、モニタリング計画などが記載されます。

    • PDDは、プロジェクトの透明性を高め、関係者がプロジェクトの詳細を理解するための重要な文書ですが、プロジェクトによっては含まれている情報が正確でなかったり、必要な情報が抜けているケースもあります。

  • Validation Report

    • カーボンプロジェクトが開始される前に、第三者の検証機関(VVB: Validation and Verification Body)が作成する報告書です。

    • この報告書は、プロジェクトのPDDが適切に準備され、関連する基準やガイドラインに準拠していることを確認するために使用されます。

    • Validation Reportは、プロジェクトが信頼性があり、実行可能であることを示す重要な文書です。

  • Verification Report

    • カーボンプロジェクトの進行中または完了後に、第三者の検証機関が作成する報告書です。

    • この報告書は、プロジェクトが実際に温室効果ガスの削減を達成しているかどうかを検証するために使用されます。

    • Verification Reportは、プロジェクトの成果が正確かつ信頼性があることを保証するための重要な文書です。

  • Monitoring Report

    • カーボンプロジェクトの実施者が定期的に作成する報告書です。

    • この報告書は、プロジェクトが進行中である間に温室効果ガスの削減・吸収がどの程度達成されているかを追跡し、評価するために使用されます。

    • Monitoring Reportは、プロジェクトの運営者が、定期的に温室効果ガスの排出量や削減効果をモニタリングし、それらのデータを収集・分析し、報告することを求められます。

    • これにより、関係者はプロジェクトの実績や効果を把握し、その信頼性を確保することができます。


カーボンクレジットの品質を構成する要素

当社プラットフォームのプロジェクト詳細レポート中に、より詳細な説明がありますので、そちらもご参照ください。

  • ベースライン

    • ベースラインは、カーボンプロジェクトが実施されなかった場合の仮想的なシナリオを示すもので、そのシナリオにおける温室効果ガスの排出量を表します。

    • ベースラインの設定は重要であり、プロジェクトによる温室効果ガス削減量を正確に評価するための基準となります。

    • 適切なベースラインが設定されることで、カーボンクレジットの品質が向上します。

  • 永続性

    • 永続性は、カーボンプロジェクトによって削減された温室効果ガス排出量が、一時的なものではなく、長期的に持続しているかどうかを評価する要素です。

    • 永続性が高いプロジェクトは、温室効果ガスの削減が持続的に実現され、カーボンクレジットの品質が高いとされます。

    • 森林プロジェクトにおいては、洪水や干ばつ、森林火災といった自然災害のリスクや、運営している機関が活動を維持するかといったさまざまな観点での評価が求められます。

  • 追加性

    • 追加性は、カーボンプロジェクトが、既存の政策や市場メカニズムだけでは実現できない、新たな温室効果ガス削減をもたらしているかどうかを示す要素です。

    • カーボンクレジットは、プロジェクトファイナンスとして捉えられ、そのファイナンスがなければそのプロジェクトは実行され得ないということを示す必要があります。

  • MRV

    • MRVは、カーボンプロジェクトの温室効果ガス削減量が正確に計測され、報告され、第三者によって検証されるプロセスを指します。MRVが適切に実施されることで、カーボンクレジットの品質や透明性が確保されます。

  • そのほか、社会・環境に対するセーフガードやSDGsへの貢献といった観点も重要とされています。


  1. これらの文書はPDFという形でレジストリーにおけるそれぞれのプロジェクトページで公開されています(例えばVCSであればこちらをご参照ください)

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GX/ETSに向けた炭素クレジット
最新動向 解説セミナー ~COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向~

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ウェビナー GX/ETSに向けた炭素クレジット 最新動向 解説セミナー COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向 参加登録する 概要 2025年11月にブラジルで開催されたCOP30も含め、パリ協定第6条(国際炭素市場メカニズム)やJCM(二国間クレジット制度)を取り巻く環境は大きく動いています。 また、日本国内でもGX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働に向けた制度設計が進んでおり、炭素クレジットの活用戦略は企業にとって重要な経営課題となっています。 本セミナーでは、環境省JCM推進室より髙橋室長補佐をお招きし、COP30の成果やパリ協定第6条関連の最新動向、JCMの進捗状況について解説いただきます。 また、サステナクラフトからは、JCMでのクレジット供給が期待されている中で、各国での6条関連の動きも踏まえた各国のJCMポテンシャルやボトルネックの分析についてお話しします。 加えて、SBTiの新たな企業ネットゼロ基準(Version 2)の2回目のパブコメの内容などもお伝えしたいと思います。

By sustainacraft