【アーカイブ配信 / 開催報告】データドリブンで実現する持続可能なサプライチェーン戦略 ~CBAM・EUDR・CSDDD・UFLPA・トランプ関税・Scope 3削減への統合対応~
(※2025年7月8日に開催されたウェビナーのアーカイブ配信です。下部に開催報告レポートもあります。)
近年、脱炭素やESG関連の取り組みは、より経営に対しての影響を数字で見せることが求められているように感じます。
これまで、企業における「サプライチェーンマネジメント」は伝統的に、調達・生産・配送・販売を全体最適の視点でQCDを最適化することに注力してきました。一方で、「サステナビリティ」の文脈では、環境目標の設定、Scope 3含めた脱炭素戦略の策定と実行、ESGの報告、各種規制対応など急速に求められています。
本セミナーでは、EU森林破壊防止規則(EUDR)、強制労働防止関連法(UFLPA・EU FLR)、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)、欧州バッテリー規則、炭素国境調整メカニズム(CBAM)といった主要規制を踏まえて、日本企業がとるべき具体的戦略について解説します。
「サプライチェーン」と「サステナビリティ」部門がどのように連携すべきなのか。どのように上述の規制に対して高リスクなサプライヤーや商材を特定し、将来の規制変更の影響をシミュレーションできるのか、当社のプラットフォームを用いた定量的な分析例をご紹介します。持続可能なサプライチェーン構築検討の参考になれば幸いです。
当社では炭素クレジットや自然資本等に関する最新動向をニュースレターにて毎月発信しております。詳細は以下をご参照ください。
<開催概要>
■ ご視聴方法:アーカイブ動画
■ ご視聴時間:1時間
■ お申込方法:こちらのフォームよりお申し込みください。
■ 参加費:無料
※ 個人の方(会社メールアドレスではない方)、同業・類似他社の方はお断りさせて頂く場合がございます。
※ お申込後、数日以内にURL付きの詳細メールをお送りします。
※ セミナー参加に関するご質問・ご相談などがございましたら、press[at]sustainacraft.com までご連絡ください。
<ウェビナー概要>
本セミナーでは、EU森林破壊防止規則(EUDR)、強制労働防止関連法(UFLPA・EU FLR)、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)、欧州バッテリー規則、炭素国境調整メカニズム(CBAM)といった主要規制を踏まえて、日本企業がとるべき具体的戦略について解説します。「サプライチェーン」と「サステナビリティ」部門がどのように連携すべきなのか。どのように上述の規制に対して高リスクなサプライヤーや商材を特定し、将来の規制変更の影響をシミュレーションできるのか、当社のプラットフォームを用いた定量的な分析例をご紹介します。持続可能なサプライチェーン構築検討の参考になれば幸いです。
<こんな方におすすめ>
■ 製造業のサプライチェーン・調達責任者
■ サステナビリティ・ESG担当者
■ リスク管理・法務担当者
■ 経営企画担当者
<ウェビナーで紹介すること>
製造業を想定した仮想的なサプライチェーンネットワークにおいて、どのように高リスクサプライヤーを特定できるか等、当社のプラットフォームを用いて定量的な分析例をご紹介します。
各種規制やScope 3削減に向けた最近の動向の振り返り
リスク評価の実践手法
〇現在のサプライヤーネットワークにおける高リスク箇所の特定方法
〇各規制に対する定量的影響度の算出手法将来シミュレーション
〇コスト最適化と規制遵守を両立するシナリオ分析手法
〇規制変更が自社サプライチェーンに与える財務インパクトの予測方法
<登壇者>
株式会社sustainacraft 代表取締役 末次 浩詩
コンサルティング業界で10年強データサイエンスを軸に様々な業界での案件に従事し、独立起業。並行して東京大学の先端研にてマルチエージェント強化学習の研究、衛星コンステレーションスタートアップでソリューションR&Dに従事したのち当社を創業。東京大学先端研博士課程(工学博士)、INSEAD Management Acceleration Programme修了。
<運営会社について>
サステナクラフトは、「自然資本への資金循環の促進」をミッションとする、自然由来カーボンクレジットのデューデリジェンスに特化したスタートアップです。2024年9月、信頼性の高い海外のカーボンクレジットを複数のプロジェクト開発者から効率的に調達できる「共同調達プラットフォーム: nature.cocraft」の提供を開始致しました。
会社概要
■ 社名:株式会社sustainacraft(サステナクラフト)
■ 設立:2021年 10 月1日
■ 代表:末次浩詩
■ 所在地:東京都目黒区目黒二丁目11番3号
■ 会社HP:https://sustainacraft.com/ja
■ 共同調達プラットフォーム:https://sustainacraft.com/ja/ncc
■ ニュースレター:https://sustainacraft.substack.com
【開催報告】
本セミナーでは、サステナビリティと調達・サプライチェーン管理の融合をテーマに、CBAM(炭素国境調整メカニズム)やEUDR(欧州森林破壊防止規則)といった最新の国際規制が事業に与える影響を定量的に分析し、最適なサプライチェーンを再設計するための具体的なアプローチが紹介されました。本レポートでは、当日の講演内容を詳しくご報告します。
1. なぜ今、サステナビリティとサプライチェーンの「融合」が必要なのか
セミナーは、サステナビリティ担当と調達担当の役割の現状と、これから求められる変革についての提起から始まりました。
従来の役割分担
サステナビリティ担当: Scope1, 2, 3排出量の算定・報告、削減目標の設定、各種フレームワークへの対応が主な業務。
調達・サプライチェーン担当: QCD(品質、コスト、納期)を最適化する調達先の選定・契約が主な業務。
しかし、近年、気候変動対策や人権デューデリジェンスに関する規制が急速に強化される中で、この縦割り構造には限界が見え始めています。CBAMによる炭素コストの発生、各種関税の導入、異常気象によるコモディティ価格の変動など、サステナビリティ要因が直接的にコストや供給の安定性を揺るがす時代に突入しました。
本セミナーでは、これらの外部要因を統合的に分析し、現状のサプライチェーンを「分析」するだけでなく、将来を見据えた「最適なサプライチェーンを設計」することが不可欠であると強調されました。そのためには、これまで分断されがちだったサステナビリティと調達の知見を融合させ、不完全な情報を前提としながらも定量的な分析を行う「サプライチェーン・インテリジェンス」が重要となります。
2. サプライチェーンに影響を与える主要な国際規制の概観
続いて、企業が直面する主要な国際規制について、その概要と影響が解説されました。具体的な貿易統計を元に、貿易額や各国の排出係数、電力グリッドの違いを想定して、どの程度の支払い(たとえばCBAM証書に対するフィー)が発生するのか、定量的な分析結果が提示されました。
EUDR(欧州森林破壊防止規則)
目的: 森林破壊に由来する製品(牛、カカオ、コーヒー、パーム油、天然ゴム、木材など7品目)のEU市場への投入・輸出を禁止する。
要求事項: 2020年12月31日以降に発生した森林破壊に由来しないことを、対象産品の地理的な情報を含めて証明する必要がある。
最新動向: 2025年12月30日より適用開始(1年延期)。国別のリスク分類が公表され、ブラジル、インドネシア、マレーシアなどは「標準リスク国」とされ、完全なデューデリジェンスが求められる。
CBAM(炭素国境調整メカニズム)
目的: EU域外からの輸入品に炭素価格を課すことで、EU域内企業との競争条件を公平にし、「炭素リーケージ」を防ぐ。
対象品目: 鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素など。
影響: 対象品目をEUへ輸出する企業は、製品の炭素排出量(現在はScope1, 2が中心)に応じた「CBAM証書」の購入が2026年1月から義務付けられる。特に鉄鋼、セメント、肥料などは、製品価値の20〜30%に相当する炭素コストが上乗せされる可能性があり、極めて大きなインパクトを持つ。
各種関税(トランプ政権の関税など)
米国の対中関税や、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)における原産地規則など、地政学リスクを背景とした関税政策もサプライチェーンのコスト構造を大きく左右する。特に自動車、鉄鋼、アルミニウムなどの分野で高い関税が設定されている。
EUバッテリー規則
電池のライフサイクル全体(原料調達、生産、リサイクル)にわたる規制。特に原料のコバルトやリチウムなどについて、人権・環境デューデリジェンスの実施を義務付けている。
3. ケーススタディで見る「サプライチェーン・インテリジェンス」の実践
セミナーの後半では、これらの複雑な要因をどのように分析し、意思決定に繋げるかについて、具体的な3つのケーススタディが紹介されました。分析のアプローチとして、BOM(部品表)を出発点とし、ティア1以降の情報が不完全な場合でも、統計データや標準排出係数を活用してボトムアップでコストとリスクを積み上げる手法が示されました。
ケース1:熱延鋼板(HRC)の生産・輸出

シナリオ: 日本で鉄鉱石(豪州・ブラジル産)を調達しHRCを生産、EUへ輸出する。
分析: 原料の調達価格(CIF)、輸送、生産(高炉法 vs. 電炉法)に伴う排出量、そして最終的なCBAMコストを統合的に比較。
インサイト:
現状では高炉法の方が製造コストは低い。
しかし、EU向け輸出ではCBAMコストを加味すると、排出量の少ない電炉法(グリーン鋼材)の方が総コストで競争力を持つ可能性が示された。サプライチェーン全体の炭素排出量とコストを可視化することで、最適な調達・生産方法を導き出せる。
ケース2:自動車(ガソリン車 vs. EV)の生産

シナリオ: 複雑なBOMを持つ自動車の生産。特にEVではリチウムイオン電池が価値・重量・排出量の大部分を占める。
分析: BOMを基に、タイヤに使われる天然ゴム(原産国:インドネシア、タイ)、EVバッテリーに使われるコバルト(原産国:コンゴ)など、上流の原料まで遡って排出量、コスト、関税、デューデリジェンスリスクを積み上げ式で評価。
インサイト:
EVのサプライチェーンは、コバルトのような紛争鉱物に関する人権デューデリジェンスリスク(EUバッテリー規則)や、中国製バッテリーに対する高関税リスクなど、複数のリスクが絡み合う。
調達ルートの変更が、コスト、排出量、地政学リスクにどう影響するかをシミュレーションする必要がある。
ケース3:タイヤ・化粧品(自然由来原料)の生産

シナリオ: 天然ゴムやパーム油をインドネシア、マレーシアから調達し、製品をEUへ輸出する。
分析: EUDR対応が最大の焦点。衛星画像などを活用し、調達元のプランテーションで森林破壊が起きていないかをミクロレベルで分析。同時に、水ストレスや干ばつといった物理的リスクが将来の調達安定性に与える影響も評価。
インサイト:
EUDRのような規制に対応するには、従来の取引データ(マクロ分析)だけでなく、農園レベルの地理空間情報(ミクロ分析)が不可欠。
短期的なコンプライアンス対応だけでなく、気候変動がもたらす中長期的な供給リスクも踏まえた調達先のポートフォリオ戦略が求められる。
まとめ
本セミナーを通じて、これからのサプライチェーン管理は、従来のQCDに「サステナビリティ」という新たな評価軸を統合し、データに基づいて定量的に未来を予測・設計する「サプライチェーン・インテリジェンス」へと進化する必要があることが明確に示されました。
CBAMやEUDRなどの規制は、単なるコスト増やコンプライアンス課題ではなく、サプライチェーンのあり方を根本から見直し、より強靭で持続可能な体制へと変革する好機と捉えることができます。そのためには、BOM情報を基点として、調達コスト、関税、炭素コスト、地政学リスク、物理的リスクといった多岐にわたる要因を統合的に分析し、最適な調達・生産シナリオを設計していくアプローチが不可欠です。当社が提供するようなソリューションが、その複雑な分析を実行し、企業の意思決定を支援するツールとなると幸いです。