【Webinarアーカイブ / 開催報告】SBTi 企業ネットゼロ基準 V2.0ドラフトの解説ウェビナー

【Webinarアーカイブ / 開催報告】SBTi 企業ネットゼロ基準 V2.0ドラフトの解説ウェビナー

(※2025年4月22日に開催されたウェビナーのアーカイブ配信です。下部に開催報告レポートもあります。)

SBTi(Science-Based Target initiative)から、企業ネットゼロ基準Version 2.0のドラフトが発表されました。初めてのメジャーアップデートであり、Scope 3の計画策定、カーボンクレジットを含む環境属性証書の利用、除去に関する中間目標の策定、BVCM(バリューチェーンを超えた緩和)の促進に向けた施策など、様々な観点での改訂が検討されています。

当社では炭素クレジットや自然資本等に関する最新動向はニュースレターにて毎月発信しております。詳細は以下をご参照ください。


アーカイブ視聴

開催概要>
■ ご視聴方法:アーカイブ動画
■ ご視聴時間:1.5時間
■ お申込方法:こちらのフォームよりお申し込みください。
■ 参加費:無料

※ 個人の方(会社メールアドレスではない方)、同業・類似他社の方はお断りさせて頂く場合がございます。
※ お申込後、数日以内にURL付きの詳細メールをお送りします。
※ セミナー参加に関するご質問・ご相談などがございましたら、press@sustainacraft.com までご連絡ください。

<ウェビナー概要>
SBTi(Science-Based Target initiative)から、企業ネットゼロ基準Version 2.0のドラフトが発表されました。初めてのメジャーアップデートであり、Scope 3の計画策定、カーボンクレジットを含む環境属性証書の利用、除去に関する中間目標の策定、BVCM(バリューチェーンを超えた緩和)の促進に向けた施策など、様々な観点での改訂が検討されています。 

本セミナーでは、上記記載したトピックについて、解説しています。

こんな方におすすめ
■ SBTiに目標が認定されている、もしくは認定に向けた検討を進められている企業ご担当者様
■ 自社におけるカーボンクレジットの検討・調達の判断材料をお探しの企業ご担当者様

登壇者 
株式会社sustainacraft 
代表取締役 末次 浩詩
コンサルティング業界で10年強データサイエンスを軸に様々な業界での案件に従事し、独立起業。並行して東京大学の先端研にてマルチエージェント強化学習の研究、衛星コンステレーションスタートアップでソリューションR&Dに従事したのち当社を創業。東京大学先端研博士課程(工学博士)、INSEAD Management Acceleration Programme修了。

<運営会社について>
サステナクラフトは、「自然資本への資金循環の促進」をミッションとする、自然由来カーボンクレジットのデューデリジェンスに特化したスタートアップです。2024年9月、GXに取組む企業向けに、信頼性の高い海外のカーボンクレジットを複数のプロジェクト開発者から効率的に調達できる「共同調達プラットフォーム」の提供を開始致しました。

会社概要
■ 社名:株式会社sustainacraft(サステナクラフト)
■ 設立:2021年 10 月1日
■ 代表:末次浩詩
■ 所在地:東京都千代田区平河町1丁目6番15号USビル8階
■ 会社HP:https://jp.sustainacraft.com
■ 共同調達プラットフォーム:https://lp.sustainacraft.com/ja/jpp
■ ニュースレター:https://sustainacraft.substack.com


ウェビナー開催報告

2025年4月22日に開催された本セミナーでは、SBTi(Science Based Targets initiative)が発表した企業ネットゼロ基準のバージョン2.0(以下、V2.0)草案に関する改定の概要、主要な論点、そして企業への影響について詳細な解説が行われました 。本記事では、セミナーで共有された情報を基に、V2.0の重要な変更点、背景にある課題意識、提案されている具体的な選択肢、そして質疑応答の内容をまとめます。

免責事項: 本記事はセミナー書き起こし に基づいて作成されており、情報の完全性・正確性を保証するものではありません。最新かつ詳細な情報は、SBTiの公式発表をご確認ください。

1. はじめに:参加者属性と関心事

セミナーは、参加者の背景と関心事を把握するためのアンケートから始まりました 。

  • 認定状況: 参加者の中には、既にSBT認定を取得している企業や、認定を検討している企業が多いことが示されました 。一方で、そもそも対象外(石油ガス業界などガイドラインがない)の企業や、未検討の企業も見られました 。

  • 関心トピック: 目標設定全般、Scope 1(Budget conserving、Scope 2と分離した設定)、Scope 2(ローケーション基準とマーケット基準のデュアルターゲット、証書の質)、Scope 3(バウンダリ、緩和策、アラインメントターゲット)、残余排出量の中和、BVCM、環境主張、J-クレジットやGX-ETSとの関連など、広範なトピックに関心が寄せられました 。特にScope 3排出量の算定や削減に関する関心が高い傾向が見られました 。Scope 2の証書の利用可能性も大きな論点ですが、アンケートでの関心は相対的に低いという印象が共有されました 。

2. V1.2の振り返りとV2.0のコンセプト

現行バージョン1.2(V1.2)の主要な要素を振り返りつつ、V2.0で導入される新しい概念や変更点が概説されました 。

V1.2の主要コンセプトの再確認:

  • 短期SBT(Near-term SBT): 5~10年スパンで、世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える科学的根拠に基づいた排出削減経路に整合する目標。

  • 長期SBT(Long-term SBT): 2050年またはそれ以前の目標年までに、Scope 1, 2, 3排出量を実質ゼロ(通常90%以上の削減)にする目標。

  • 中和(Neutralization): 長期目標達成年に依然として残る排出量(残余排出量、Residual Emissions)を、除去によって中和すること。

  • BVCM(Beyond Value Chain Mitigation): V1.2では推奨事項として、バリューチェーン外での気候変動緩和への貢献活動が挙げられていました。

V2.0で導入される主要な新コンセプトと変更点:

  • PDCAサイクルの本格導入:

    目標設定(Plan)だけでなく、実施(Do)、進捗評価(Check)、見直し・改善(Act)という継続的な運用フェーズが導入されます 。

    リニューアル検証(Renewal Validation): 原則5年ごとに目標の妥当性や進捗状況を再検証し、必要に応じて目標を再設定するプロセスが義務付けられます 。

    事前(Ex-ante)評価から事後(Ex-post)評価へ: 従来の目標設定時の妥当性評価に加え、目標期間終了後の実際の達成度評価が重視されます 。

  • Ongoing EmissionsとBVCMの強調

    Ongoing Emissions: 企業活動に伴い、現在および将来にわたって継続的に排出されるGHG。

    これに対し、BVCMを通じて対応することの重要性がV1.2よりも強く打ち出されます。

  • 除去目標(Removal Target)の明確化:

    ネットゼロ目標年における残余排出量の中和に加え、そこに至るまでにScope 1については除去活動に関する中間目標の設定が提案されています。

  • 企業の分類(ティアリング)導入:

    企業の規模、所在地(先進国/途上国)などに基づき、カテゴリーAとカテゴリーBに分類されます 。

    要求される目標設定の範囲や厳格さが異なる可能性があります(例:カテゴリーA企業はScope 1, 2, 3全てで短期目標必須)。

  • 緩和策評価の精緻化:

    アラインメントターゲット(中間指標): 最終的な排出削減量だけでなく、サプライヤーエンゲージメントの進捗率や、再生可能エネルギー導入率など、排出削減に繋がる中間的な活動指標も目標として活用することが求められます。

    緩和策の分類(Direct/Indirect Mitigation): トレーサビリティのレベルに応じて緩和策が分類され、Indirect Mitigation(例:Book & Claim型の証書)も暫定的にScope 3削減として認められるようになります 。

3. 科学的根拠と政策的判断に関する補足

本格的な解説に入る前に、SBTiにおける「科学的根拠(Science-based)」と「政策的判断」について、以下の点が補足されました 。

  • ネットゼロ概念の適用: 「ネットゼロ」は本来、地球規模(グローバル)での概念であり、科学的コンセンサスがあります 。しかし、それを個々の国や企業レベルに適用する際に「何が科学的に正しいか」の唯一解は存在しません 。

  • オフセットの扱い: パリ協定6条では市場メカニズムによる国家間の排出量取引(オフセット)が認められていますが、SBTiでは原則として目標達成のためのオフセット利用を認めていません 。これはSBTiによる「政策的判断」であると説明されました 。

  • 削減クレジットと除去クレジット: 気候変動への影響という点では、排出削減クレジットと除去クレジットは(ベースラインが妥当であれば)同等と見なせるという研究もあります 。しかし、削減クレジットはベースライン設定の妥当性に依存するという難しさがあると指摘されました 。

4. V2.0 詳細解説:目標設定(Target Setting)の主要コンセプト

V2.0草案における目標設定(Target Setting)に関する9つの主要コンセプトについて、より踏み込んだ解説が行われました 。

4.1. 全体に関わる変更点

  • Scope 1, 2, 3 個別目標設定の義務化(カテゴリーA): カテゴリーAに分類される企業は、短期目標においてScope 1, 2, 3それぞれで個別の削減目標を設定する必要があります 。従来認められていたScope 1と2の合算目標は不可となります 。これにより、例えばScope 2の再エネ調達だけでScope 1の削減が進まない状況を防ぐ狙いがあります 。

  • 長期目標設定の義務化(カテゴリーA): カテゴリーA企業は長期的なネットゼロ目標の設定も必須となります 。長期目標にScope 3を含めることが必須となるかは、現在検討中とされています 。

4.2. Scope 1:炭素予算維持(Carbon Budget Conservation)

  • 背景: 地球全体の気温上昇は、累積GHG排出量によって決まります 。企業が目標達成を先延ばしにし、経路の後半で急激な削減を行うと、累積排出量が増加し(オーバーシュート)、地球全体の炭素予算(許容排出量)を超過するリスクがあります 。

  • コンセプト: 各企業がネットゼロ目標達成までに排出するGHGの累積量を、科学的に妥当な範囲内に収めることを目指す考え方です 。早期に削減努力を行わなかった場合、その「ツケ」を後で払う(=より厳しい削減経路や早期の目標達成を要求される)というコンセプトです 。

    具体的なアプローチ(初回検証時):

    Option A: Budget-Conserving Contraction Approach: SBT参加が遅れた場合など、本来辿るべきだった削減経路からの超過排出分(オーバーシュート分)を計算し、その分だけネットゼロ目標年を前倒しすることで、累積排出量を調整します 。より公平性を担保するアプローチとされます 。

    Option B: Linear Contraction Approach: 従来の考え方に近く、目標設定基準年からネットゼロ目標年まで直線的に排出量を削減する経路を設定します 。過去の超過排出は考慮されません 。

    再検証(Renewal Validation)時の対応(目標未達の場合): 5年ごとの再検証で短期目標が未達(アンダーパフォーマンス)だった場合の対応として、以下の3つのオプションが提示されています 。

    Option 1: Budget-Conserving Contraction Approach: 未達分を考慮し、累積排出量を維持するためにネットゼロ目標年をさらに前倒しします 。実現可能性への懸念も指摘されています 。

    Option 2: Linear Contraction Approach: 未達分は考慮せず、その時点の排出量からネットゼロ目標年へ向けて再度直線的な削減経路を設定します 。

    Option 3: Linear Contraction Approach + Removal: Option 2と同様の目標設定を行いつつ、未達分に相当する量を耐久性のある除去(パーマネントリムーバル)で補填することが義務付けられます 。これは、後述の残余排出量に対する除去目標よりも大きな量の除去を要求される可能性があり、企業負担が大きい選択肢となり得ると指摘されました 。

4.3. Scope 2:デュアルターゲットと証書の質的要件

  • 背景: 従来のマーケット基準のみの目標設定では、特にアンバンドル証書(電力自体と環境価値が切り離されて取引される証書)の購入が、必ずしも実際の再生可能エネルギー導入促進に繋がっていないという課題意識がありました 。

  • デュアルターゲット設定の必須化:

    ロケーション基準: 企業が電力を消費している地域の電力系統(グリッド)全体の平均排出係数に基づいて排出量を計算します 。個々の企業努力だけでは改善が難しく、グリッド全体の脱炭素化が進む必要があります 。

    マーケット基準: 企業が購入した電力の属性(再エネ証書、電力契約など)に基づいて排出量を計算します 。企業の選択が直接反映されます 。

    両基準での目標設定が必須となり、より実態に近い削減努力を促します 。これはGHGプロトコルのScope 2ガイダンス改定の方向性と一致しています 。

  • 証書の品質要件強化(時間的・地理的整合性):

    マーケット基準において再エネ証書などを使用する場合、証書が発行された発電のタイミングと場所が、企業が実際に電力を消費したタイミングと場所に、より厳密に一致していることが求められます 。

    これは、電力需給は短時間(例:15分単位)で合致させなければいけない実態を踏まえ、証書購入が実際の再エネ導入拡大や系統安定化に貢献するように促すための要件です 。安価なアンバンドル証書など、時間的・地理的整合性の低い証書の利用は、他の選択肢がない場合に限定される可能性があります 。

    SBTiは、この整合性確保が困難な場合の正当化理由について、フィードバックを求めています 。

  • 名称変更:「ゼロカーボン電力目標」へ: 原子力など、再生可能エネルギー以外のゼロカーボン電源の利用も考慮した名称に変更されます 。

4.4. Scope 3:バウンダリ、緩和策の選択肢、中間指標

  • バウンダリ設定の厳格化:

    従来の課題: 排出量の67%(短期)/90%(長期)カバーという基準のみでは、例えば自動車メーカーが主要な排出源である鉄鋼(カテゴリ1)をバウンダリから除外できてしまう可能性がありました 。

  • V2.0での変更:

    Significant Categories: Scope 3総排出量の5%以上を占めるカテゴリは必ず含める必要があります 。

    Emission Intensive Activities: 上記以外でも、SBTiが別途リスト化する「排出集約型活動」(例:農業における牛、カテゴリ1におけるセメントやアルミなど)に関連する排出は、重要度に関わらず含める必要があります 。フルリストはAnnex Dに記載されています 。

  • 緩和策の評価と選択肢(Direct/Indirect Mitigation):

    トレーサビリティ(Chain of Custody)の概念: 原材料調達から製品までの追跡可能性のレベルを示すモデル(Identity Preservation, Segregation, Mass Balance, Book and Claimなど)が考慮されます 。

    Direct Mitigation: トレーサビリティがある程度確保された削減活動。IP、Segregation、Controlled Blending、Mass Balanceなどが該当するとされています 。Supplier Shed(例:特定の地域の農家群)レベルでの介入(例:再生可能農業の導入支援)による削減効果も、Direct Mitigationとして認められる方向です 。これは従来の議論より緩和された側面があります 。

    Indirect Mitigation: トレーサビリティが確保されていない削減活動。主にBook and Claim方式によるコモディティ証書などが該当します 。V2.0では、これらの活用も次元的(期限未定)にはScope 3目標の内数として算入することが許可されます 。ただし、Direct Mitigationとは別に報告することや、追加的な要件を満たすことが求められます 。これはBVCMとは異なり、あくまでバリューチェーン内の排出削減を意図した活動とされます 。

  • アラインメントターゲット(中間指標)の重視:

    従来の課題: Scope 3の排出削減効果は、サプライヤーエンゲージメントなど長期的な取り組みの結果として現れるため、最終的な排出量指標だけでは短期的な進捗が見えにくいという問題がありました 。

    V2.0での対応: 最終的な排出量(Absolute contraction, Emission intensity)に加え、排出削減に繋がる中間的な行動や成果を示す指標(例:サプライヤーのSBT認定率、低炭素素材の調達率など)を目標(アラインメントターゲット)として設定し、進捗を測ることが重視されます 。具体的な指標(17種類)とベンチマークが提示されています 。

4.5. 残余排出量(Residual Emissions)と除去(Removals)

  • 除去に関する中間目標(Interim Removal Target)の設定義務化の可能性:

    ネットゼロ目標年(例:2050年)に達成すべき残余排出量の中和に加え、そこに至る中間年(例:2030年、2035年)における除去量の目標設定が、特にScope 1排出量に対して提案されています 。

  • 目標設定オプション:

    Option 1/2: Explicit Removal Target: 明確な中間除去目標を設定(Option 1は義務、Option 2は任意/推奨)。目標量は、ネットゼロ年の残余排出量と目標年までの削減経路に基づいて計算されます 。

    Option 3: No Explicit Target (Mitigation Hierarchy): 個別の除去目標は設定せず、緩和階層(削減努力を最優先)に従い、技術的・経済的に削減不可能な排出のみを除去対象とします 。この場合、残余排出量は実質ゼロを目指すことになります 。

  • 除去の最低耐久性要件(Minimum Durability Threshold):

    背景: CO2は大気中に数百年~数千年残留するため、除去活動によるCO2固定期間(耐久性)が重要になります 。

    オプション:

    Option A: Like-for-Like Approach: 排出するGHG(CO2, CH4等)の大気中寿命に応じて、必要な除去の耐久性を決定します 。例えばCO2排出に対しては200年または1000年以上の耐久性が求められる可能性があります(未定)。メタン(CH4)のように寿命が短いガスには、より短い耐久性(例:12年)で良いとされます 。ただし、高耐久性除去(例:1000年超)は現在コストが高いため、中間目標では段階的に要求レベルが引き上げられます(Interim Removal Factor)。

    Option B: 段階的移行 Approach: 排出ガスの種類に関わらず、標準化された耐久性要件を適用します 。除去タイプを「Conventional(従来型:植林、土壌炭素など、例:100年+)」「Novel(新規型:DAC、バイオ炭の一部など、例:1000年+)」に分類し、目標年次に応じてNovelタイプの比率を高めていくことが求められます 。

    企業負担の比較: Option Bの方が全体的な除去量は多くなる可能性がありますが、Novelタイプの要求比率は低いため、経済的負担はOption A(特にCO2排出が多い場合)より小さくなる可能性が指摘されました 。また、講演者個人の意見として、少量の超長期除去よりも、まとまった量の100年以上の除去を確保する方が気候変動対策として重要ではないか、との見解が示されました 。

    いずれのオプションでも、2030年頃からCDR(Carbon Dioxide Removal)クレジットの調達が必要になる可能性が高く、企業は早期に戦略検討を始める必要があると強調されました

  • 除去の品質要件:

    GHGプロトコルの「Removals and Land Sector Guidance」などで示される品質基準への準拠が求められます 。具体的には、永続性のモニタリング、トレーサビリティ、追加性、二重計上防止、不確実性の定量化、リバーサル(反転)の算定、リスク管理などが挙げられます 。

    J-クレジットやJCM、GX-ETS等で創出された除去クレジットがこれらの基準を満たすかは、個別の方法論やプロジェクトごとに確認が必要です 。

  • Scope 3残余排出量の中和義務: Scope 3に関しても、ネットゼロ目標達成時には残余排出量の中和が必要です 。これは、バリューチェーンパートナー自身による中和、または企業がパートナーの中和を可能にする支援(例:資金提供、技術協力)を通じて達成されることが期待されています 。セクターによってはScope 3除去目標が将来的に導入される可能性も示唆されました 。

5. BVCM(Beyond Value Chain Mitigation)の実行と報告

V1.2では推奨に留まっていたBvCMが、V2.0ではSBTiによる正式な認識(Recognition)の対象となり、その重要性が高まります 。

  • 目的: 企業自身のバリューチェーン排出削減(SBT達成)努力に加え、それを超えた範囲での気候変動緩和に貢献すること 。

  • 対象: Ongoing Emissions(現在および将来の排出量)。

  • 貢献量の考え方と報告:

    Ton-for-Tonからの脱却: 排出量1トンに対してクレジット1トンを購入するという単純な量ベースの考え方だけでなく、数量に炭素価格を乗じた「金額ベース(Monetary Contribution)」に換算した上での貢献が重視されます 。

    プロセス: Ongoing Emissionsに内部カーボンプライシング等を適用してBVCM予算を算出し、その予算内で質の高い緩和貢献(必ずしもクレジット購入量最大化ではない)を行うというアプローチが推奨されます 。

    報告要件: 貢献した緩和量(トンまたは割合)に加え、投じた資金貢献額の報告が求められます 。これにより、価格の安さだけでクレジットを選ぶインセンティブを低減し、質の高いプロジェクトへの資金流入を促す狙いがあります 。

  • 実行タイミングと対象範囲(オプション):

    タイミング: 毎年実施するか、5年ごとの検証サイクルに合わせて期末に実施するか 。

    対象範囲: Scope 1, 2, 3全てのOngoing Emissionsを対象とするか、Scope 3については一部のみを対象とするか 。

  • 期待される効果: SBTiによる正式な認識が得られることで、企業がBVCMに積極的に取り組み、それを対外的に発信するインセンティブが高まることが期待されます 。REDD+(途上国の森林保全等)のような活動も、量だけでなく質を重視した貢献として評価される流れが強まる可能性があります 。

6. 検証サイクル(Validation Cycle)と環境主張(Claims)

V2.0では、目標設定後の運用フェーズが重視され、検証プロセスとそれに基づく環境主張のあり方も変わります 。

  • リニューアル検証(Renewal Validation): 5年ごとに目標の進捗状況と妥当性を再検証するプロセスが導入されます 。目標未達の場合は、前述の通り、目標の再調整や追加的な除去義務が発生する可能性があります 。

  • BVCM貢献(BvCM Contribution Claim): BVCMの実施状況がSBTiに認められた場合に行える追加的な主張 。

  • 企業価値向上への寄与: 定期的な進捗評価とそれに基づく主張が可能になることで、単に目標認定を受けるだけでなく、継続的な取り組みを対外的にアピールし、企業価値向上に繋げる機会が増えると期待されます 。

7. 質疑応答(Q&A)

セミナー後半では、参加者からの質問に対応する時間が設けられました 。

  • 質問1:Scope 1目標に対する除去としては、除去クレジットが使えるのか?

  • 回答: Scope 1の残余排出量の中和や、目標未達分に対する補填(Option 3の場合)には、耐久性と品質要件を満たすCDR(除去)クレジットが必要となる理解です 。企業のバリューチェーン内活動でこれらの要件を満たすことは通常困難なため、基本的には外部からのCDRクレジット調達が想定されます 。

  • 質問2:グローバルでBVCMに真剣に取り組んでいる企業の具体例は?

  • 回答: 米国のアウトドア小売 REI Co-op が挙げられました 。同社は毎年Scope 1, 2, 3排出量と同量のクレジットを調達し、その内訳と貢献金額を開示しています 。消費財メーカー向けのイニシアチブ「Climate Neutral」の認定も受けています 。それ以外で包括的に取り組んでいる企業はまだ少ない印象とのことでした 。

  • 質問3:Scope 2でロケーション基準の目標が必須になるが、企業側で削減のために具体的に何ができるのか?

  • 回答: ロケーション基準はグリッド全体の排出係数に依存するため、個別企業の努力だけで達成するのは難しい側面があります 。自家発電などによる再エネ調達も貢献はしますが、グリッド全体への影響は限定的です 。しかし、マーケット基準において時間的・地理的整合性の高い証書(=そのグリッド内での再エネ発電を促す証書)を選択・購入することが、結果的にロケーション基準の改善にも繋がると考えられます 。両基準は別目標ですが、質の高いマーケット基準での行動がロケーション基準にも好影響を与えるという関係性です 。

  • 質問4:JCMやJ-クレジットをGX-ETSとSBTの両方で主張(ダブルカウントならぬダブルクレイム)することは可能か?

  • 回答: SBTにおける使用目的(例:残余排出量の中和、BVCM、短期目標未達補填)と、国内制度(温対法、GX-ETSなど)での報告・主張は両立させることは可能だと考えられます 。ただし、例えばSBTの残余排出量中和に使ったクレジットを、同時にGX/ETSの枠組みでその年のScope 1排出量のオフセットに使うようなことは、用途・カバレッジが異なるため認められないでしょう 。明確なガイダンスはまだ確認できていないため、今後の情報を注視する必要があるとのことでした 。

  • 質問5:Scope 3短期目標の年限(5~10年など)について具体的な記述はあるか?

  • 回答: 通常は5年が基本と認識しているが、正確な情報は基準文書を確認する必要があるとのことでした 。

  • 質問6:SBTでCDRクレジットを利用する場合、パリ協定6条に基づく「相当調整(Corresponding Adjustment)」は考慮する必要があるか?

  • 回答: 不要であるという理解です 。SBTiはクレジット利用において相当調整を要件としていません 。相当調整が主に問題となるのは、ホスト国が自国のNDC(国別削減目標)達成にカウントしたい(相対的に実施コストの低い)排出削減クレジットの場合であり、CDRクレジットでは状況が異なると考えられます 。

  • 質問7:SBTiで使用可能となるCDRクレジットの具体的な認証機関やタイプは?

  • 回答: 特定の認証機関名は挙げられていませんが、前述の「耐久性要件」と「品質要件」を満たす必要があります 。耐久性については、Like-for-Likeか段階的移行アプローチのどちらが採用されるかによりますが、一般には各レジストリーはクレジット発行時に耐久性レベル(例:100年+, 1000年+)が付与されるため、それが判断基準になります 。耐久要件以外の品質基準については、IC-VCMやICROAなどが認定する主要なボランタリースタンダードであれば、多くの場合、要件を満たすと考えられるとのことでした 。

  • 質問8:BVCMの一環としてリムーバル(除去)への投資も例示されているが、Scope 1のInterim Removal Targetとの関係は?

  • 回答: 両者は別物として考えるべきです 。BVCMはOngoing Emissionsに対する貢献であり、Interim Removal Targetは将来の残余排出量に向けた除去です 。BVCMにおいては、必ずしも除去クレジットを使う必要はなく、REDD+のような削減クレジットなども活用可能と考えられます 。

  • 質問9:Scope 3削減におけるインセット(バリューチェーン内でのクレジット創出・活用)は広がるか?

  • 回答: V2.0の改定内容(Direct Mitigationの範囲拡大、Indirect Mitigationの許容)を見ると、企業がわざわざクレジット化されたインセット手法(例:VerraのScope 3プログラム)を使うメリットは薄れ、活用は広がらないのではないか、という見解が示されました 。

  • 質問10:耐久性について、例えば40年プロジェクト期間の植林(AR)プロジェクトは100年以上の耐久性を満たしうるか?

  • 回答: プロジェクト期間が40年でも、モニタリング期間が100年以上確保され、期間中のリバーサル(再放出)発生時にバッファープール等で補填される仕組みがあれば、「100年以上の耐久性」とみなされる可能性があります 。主要な認証基準では、現在モニタリング期間は最低100年とされているため、基準に準拠したARプロジェクトはConventional Removal(100年+)に該当すると考えられるとのことでした 。重要なのはプロジェクト期間そのものではなく、CO2固定の永続性を担保する仕組みです 。

  • 質問11:内部カーボンプライシング(ICP)の価格と、クレジット調達価格を近づける必要はあるか?

  • 回答: そのような要求は聞いたことがないとのことです 。ICPには様々な目的・種類があり、SBTiが特定のICP設定を要求しているわけではないため、クレジット価格と連動させる必要性はないと考えられます 。

  • 質問12:Scope 3についても、ネットゼロ目標達成時には残余排出量の100%中和が必要か?

  • 回答: 必要であるという理解です 。基準草案にもその旨が明記されています 。達成方法としては、バリューチェーンパートナー自身による中和、または自社がパートナーの中和を可能にする支援を行うことが想定されています 。具体的な方法は産業や企業によって異なり、パーマネントな除去クレジット購入が必要な場合も、バリューチェーン内での介入で達成可能な場合もあると考えられます 。

  • 質問13:(講演者への質問)パイプラインの中で耐久性・品質要件を満たすCDR案件はどの程度あるか?

  • 回答: 現状、パイプライン(取り扱い候補)の多くは植林系であり、これらは100年+の耐久性と品質要件を満たす可能性が高いです 。より耐久性の高いバイオ炭や風化促進などの案件も増えていますが、まだ比率は高くありません 。ただし、V2.0の動向を受け、これらの高耐久性CDR案件の重要性を上げて情報収集や評価を進めているとのことでした 。

8. 結論と今後の展望

SBTi企業ネットゼロ基準V2.0は、目標設定の厳格化、PDCAサイクルの導入、除去やBvCMの重要性向上など、多岐にわたる大きな変更を含むものです 。企業はこれらの変更点を正確に理解し、自社の戦略や体制を見直し、具体的なアクションプランを策定・実行していく必要があります 。特に、CDR戦略の早期検討や、Scope 3エンゲージメントの深化、継続的な進捗管理体制の構築が重要となるでしょう 。

本セミナーで解説された内容は草案段階のものであり、今後パブリックコメント等を経て最終化される予定です。企業は引き続きSBTiからの公式情報を注視していく必要があります。


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