2024年7月 Methodology Updates (1/n)

ACRのIFM方法論の改訂: ベースライン計算の厳格化

2024年7月 Methodology Updates (1/n)

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では主にACR (American Carbon Registry)のIFM (Improved Forest Management)の方法論の改訂ついてご紹介します。

こちらのニュースレターで触れた通り、VCSでは方法論 VM0045が改訂されたことにより、IFMプロジェクトから除去(removal)ラベルがついたクレジットが発行できるようになりましたが、ACRのIFM方法論では一足先に2022年から除去ラベルが付与可能となっていました。今後除去クレジットの需要増が見込まれていますが、IFMプロジェクトは比較的コストが小さく、かつ政治的リスクが小さい米国での案件が主なため、除去クレジットの安定供給源の一つとしてその動向を追うことは重要です。

今回の改訂は主にベースラインの設定に関するものですが、除去クレジット量は主にプロジェクトシナリオにより決定されるため、除去クレジット量への直接的な影響は少ないかもしれません。一方で削減 (reduction)ラベルがついたクレジット量はベースラインに大きく依存します。プロジェクトの設計はクレジット収益 (=除去・削減クレジット量の和)によって変わるため、その意味では今回の改訂がIFMのプロジェクト設計や質に与える影響は大きいと思われます。

お問い合わせはこちらまでお願いたします。


“ジェダイ”の帰還: 衛星LiDARミッションGEDIの運用期間延長を決定

(出所: GEDI website, 2024年7月25日アクセス)

本題に入る前に、森林バイオマスのモニタリングに関するテクノロジーの話題を簡単にご紹介します。

みなさんはGEDI (ジェダイ)という衛星ミッションをご存知でしょうか。GEDIはGlobal Ecosystem Dynamics Investigationの略で、地上部の植生の調査を目的としてNASAとMaryland大学の主導で開発されたLiDARセンサーです。国際宇宙ステーションに設置されています。

衛星リモートセンシングを利用した植生モニタリングの歴史は長く、特に光学衛星画像からバイオマス量に相関するインデックスを作成して分析するアプローチは広く行われてきました。しかし、そのようなインデックスはバイオマス密度がある程度に達すると値が飽和していまい、それ以上は正しく推定できないという問題がありました。

一方で、GEDIはLiDARセンサーの特性上、発射するパルスの一部は植生を透過して地面まで到達します。その反射波を分析することで、植生の樹高のみならず3D構造をざっくりと推定することができます。さらにそれらの情報を用いてバイオマス量の推定値も提供しています。もちろんGEDIデータにも色々と限界はありますが、グローバルでのバイオマス調査においては欠かせないプロダクトであり、弊社でもカーボンプロジェクトの分析に関する様々な局面で利用させて頂いています。

GEDIは2019年初頭から運用が開始されていますが、NASAの元々の想定では2年程度 (途中で延長され4年)で運用を終了し、その後大気圏に再突入させて焼却することになっていました。しかしその科学コミュニティへの貢献の高さゆえに専門家からの運用継続の要望が相いだため、NASAは運用期間の延長を決定しました。結果として、2023年3月から約1年間の休眠期間を挟み、2024年4月からまた運用をスタートしました。

以上の経緯が、Return of (the) GEDIというタイトルの記事で紹介されています。日本語だとジェダイの帰還で、これはスター・ウォーズ エピソード6のオマージュですね (ちなみにあちらのジェダイはJediです)。

現在は2030年までの運用を計画しているようなので、2030年のネットゼロ中間目標に向けて今後も様々な分野での活躍が期待できそうです!


ACRのIFM方法論の改訂: ベースライン計算の厳格化

(出所: ACR website, 2024/07/20アクセス)

ACRは2024年7月1日に、IFM方法論の一つであるImproved Forest Management (IFM) on Non-Federal U.S. Forestlands (以下、方法論)のv2.1を発表しました。これは2022年に発表されたv2.0のマイナー改訂という位置づけです。今回の改訂は多岐に渡りますが、変更の主眼はベースライン設定の厳格化で、具体的には1) ベースラインシナリオ特定時に考慮する制約条件の追加、2) ベースラインの動的再評価です。

ACRの発表によれば、本方法論を用いたプロジェクトの面積総和は240万エーカー、累積発行クレジット量は2400万 tCO2です。既存プロジェクトへ即時適用されるということはない1ようですが、中長期的には今回の改訂の影響は小さくないと思われます。

以下、上記の2点に注目しつつ改訂内容を紹介します。
(画像の出所は全て方法論のドキュメントです)

改訂ポイント1: シナリオ特定時の制約条件の追加

ここでは改訂版でのベースラインシナリオ特定の流れ紹介しつつ、適宜変更点を説明します。

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ウェビナー GX/ETSに向けた炭素クレジット 最新動向 解説セミナー COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向 参加登録する 概要 2025年11月にブラジルで開催されたCOP30も含め、パリ協定第6条(国際炭素市場メカニズム)やJCM(二国間クレジット制度)を取り巻く環境は大きく動いています。 また、日本国内でもGX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働に向けた制度設計が進んでおり、炭素クレジットの活用戦略は企業にとって重要な経営課題となっています。 本セミナーでは、環境省JCM推進室より髙橋室長補佐をお招きし、COP30の成果やパリ協定第6条関連の最新動向、JCMの進捗状況について解説いただきます。 また、サステナクラフトからは、JCMでのクレジット供給が期待されている中で、各国での6条関連の動きも踏まえた各国のJCMポテンシャルやボトルネックの分析についてお話しします。 加えて、SBTiの新たな企業ネットゼロ基準(Version 2)の2回目のパブコメの内容などもお伝えしたいと思います。

By sustainacraft