2024年11月 Methodology Updates (1/n)

IFMのリーケージモジュール改善に向けた研究

2024年11月 Methodology Updates (1/n)

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、IFMプロジェクトにおける新しいリーケージ評価方法に関する研究を紹介します。

今月のはじめ、Renosterがホストとなり、北米のMaine大学やNature Conservancyの研究者らが進めている新しいリーケージ評価フレームワークに関するウェビナーが開催されました([1])。今回のニュースレターでは、そのウェビナーの元となっている研究 ([2])と、その背景である既存方法論のリーケージ評価を中心に説明します。

クレジットの質評価の文脈においては、リーケージの評価は、ベースラインや追加性と比べると相対的に注目度が低い状態が続いていました。リーケージには2種類あり、生産活動が空間的に隣接した周囲のエリアにシフトする活動シフト (activity shift)と、市場を通じてどこか別の場所で発生する市場リーケージ (market leakage)に分かれますが、簡易的な手法により前者の活動シフトのみを評価している方法論が殆どでした。

しかし、2023年9月に発表されたVerraのARR方法論VM0047において、(かなり粗い想定を置きつつではありますが)市場リーケージも考慮するアプローチが導入されたことを受け、IFMにおいてもリーケージの評価方法の改善に向けた議論が進みはじめています。今回紹介する研究はまだ初期的な結果であり、実際に方法論に反映されるにはまだ時間がかかるように思います。しかし、基本的にベースラインで経済活動が存在するIFMにおいては、リーケージの評価はある意味ARR以上に影響度が大きい項目です。本記事がリーケージにも意識を向けるきっかけとなれば幸いです。

お問い合わせはこちらまでお願いたします。


IFMのリーケージモジュール改善に向けた研究

*今回参照した情報の出典は以下です。

  • [1] Daigneault et al. "Understanding Leakage in Forest Carbon Projects: Insights from the Global Timber Model", Webinar, hosted by Renoster, November 7, 2024. https://www.youtube.com/watch?v=DWkIEhYyzN0
  • [2] Daigneault et al. "A Global Assessment of Regional Forest Carbon Leakage." Research Square, 2023, https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3596881/v1 (preprint).
  • [3] Verra. "VM0045 Methodology for Improved Forest Management Using Dynamic Matched Baselines from National Forest Inventories, v1.1." Last modified March 12, 2024. https://verra.org/methodologies/methodology-for-improved-forest-management/.
  • [4] Verra. "VMD0054 Module for Estimating Leakage from ARR Activities, v1.0." Last modified September 28, 2023. https://verra.org/methodologies/vmd0054-module-for-estimating-leakage-from-arr-activities-v1-0/.

リーケージとは何か

まず、リーケージ (leakage)とは何かを簡単に確認しておきましょう。リーケージとは、プロジェクトの活動が原因でプロジェクトエリア外で起きる、意図していないカーボンストック量の変化のことを指します1。IFMの文脈では、例えば伐期を延長することにより木材の供給量が減少し、それを代替するためにどこか別の場所で追加的な代替生産が行われ、そこでの森林カーボンストックが減少することが該当します。これは負の影響がある場合の例ですが、逆にプロジェクトの活動の影響で森林保護意識が高まり、プロジェクトエリアの周囲でも森林劣化のスピードが緩和する場合など、正の影響がある場合もあります。プロジェクトの効果を正しく評価するためには、プロジェクトエリア内のカーボンストック量の変化だけではなく、リーケージの影響も考慮することが必要です。

リーケージの概念 (Webinar[1]より)

現行の方法論ではどのようにリーケージが考慮されているのでしょうか。例として、以下ではVerraの最新のIFM方法論のVM0045([3])での考え方を紹介します(基本的な考え方はAmerican Carbon RegistryやClimate Action Reserveなど、他のレジストリーの方法論でも同様です)。また参考として、ARR方法論のVMD0054 ([4]; VM0047に付随するリーケージモジュール)についても説明します。

Read more

GX/ETSに向けた炭素クレジット
最新動向 解説セミナー ~COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向~

GX/ETSに向けた炭素クレジット 最新動向 解説セミナー ~COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向~

ウェビナー GX/ETSに向けた炭素クレジット 最新動向 解説セミナー COP30やGX/ETS制度設計、そのほか関連イニシアティブを踏まえた最新動向 参加登録する 概要 2025年11月にブラジルで開催されたCOP30も含め、パリ協定第6条(国際炭素市場メカニズム)やJCM(二国間クレジット制度)を取り巻く環境は大きく動いています。 また、日本国内でもGX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働に向けた制度設計が進んでおり、炭素クレジットの活用戦略は企業にとって重要な経営課題となっています。 本セミナーでは、環境省JCM推進室より髙橋室長補佐をお招きし、COP30の成果やパリ協定第6条関連の最新動向、JCMの進捗状況について解説いただきます。 また、サステナクラフトからは、JCMでのクレジット供給が期待されている中で、各国での6条関連の動きも踏まえた各国のJCMポテンシャルやボトルネックの分析についてお話しします。 加えて、SBTiの新たな企業ネットゼロ基準(Version 2)の2回目のパブコメの内容などもお伝えしたいと思います。

By sustainacraft